習慣新書

新書を片っ端から紹介していくブログです。1年間に200~300冊程度紹介するのを目標にしています。

表題には異議あり。EUはキリスト教に原点回帰している。    『イスラム化するヨーロッパ』新潮新書 三井美奈

 国内問題とアメリカ大統領選挙の報道で、ここ2、3か月、日本人の関心はヨーロッパから遠ざかっているようだが、ヨーロッパに安定が来る日は遠そうだ。ユーロに加盟している弱小国はギリシアに限らず、どの国が財政破綻してもおかしくない。経済がおかしくなると人々の本音がむき出しになる。これまで多様性への寛容さを売りにし、日本の自称リベラル派たちから見習うべき国の代名詞だった北欧諸国にも、イスラム排除の空気が漂い始めている。それを紹介してくれるのが本書である。
 ヨーロッパが移民を受け入れた歴史は古く、今ではイスラム教徒の二世三世が誕生しはじめている。彼らの多くは日本の在日コリアンと異なりヨーロッパの国々の国籍を取得しているが、それでも「ヨーロッパ人」になるのは困難だ。そして母国に違和感を持つ彼らが、インターネットを通じてイスラム国やアルカイダなどの過激派にシンパシーを感じていく有様を筆者は綿密な取材で描いている。
 テレビ報道を見ていると、あたかもイスラム国なるものが存在し、彼らがテロ活動を起こしているかの錯覚に陥るが、フランスでテロを起こす者の多くは紛れもないフランス人であり、イギリスやドイツもまた同じである。彼らは、第2章の章題にもあるように「ホームグロウン・テロリスト」と呼ばれている。ホームグロウン・テロリストを生み出す土壌については、本書が紹介するイギリスのキャメロン首相の言葉、

「悲しいことだが、我々は認めなければならない。この国に生まれ育ちながら、英国人として生きられない人がいる」

がすべてを表している。

 しかし、政治は世論を受けて動く。悲しんでばかりいられないのだ。デンマークでは新移民に対する社会保障費は半分に削減された。スウェーデンでも移民排斥を主張する政党が議席を伸ばし、ノルウェーでも移民制限を主張する政党が第二党になった。今や反イスラム政党抜きに欧州政治は語れないと筆者は言う。その主張には完全に同意する。

 ただ、2点ばかり違和感がある。
 1点目は本書のタイトルだ。ヨーロッパはイスラム化しているのではない。イスラム移民の増加により偽善の仮面が剥がれ、本来の姿であるキリスト教化しているのだ。
 2点目は、先進諸国の第2党や第3党に伸長している政党に対し、「極右政党」と呼ぶのはいかがなものだろう。
 この2点の違和感を除いても、本書が読むに値することは言うまでもない。