習慣新書

新書を片っ端から紹介していくブログです。1年間に200~300冊程度紹介するのを目標にしています。

沖縄問題を除けば参考になる、沖縄独立派の著作  『使える地政学』朝日新書 佐藤優

 地政学とは地理的な環境が政治的、軍事的、経済的な側面で国家や民族に与える影響を、イデオロギーを排して冷静に分析しようとする学問である。

 本書は、地政学に基づいて2016年現在の国際情勢を読み解いた書物だ。

 日本では、イデオロギーで世の中を捉えようとする前世紀の遺物がまだまだ幅を利かせているが、ソ連崩壊後は地政学で世界を捉えるのが潮流のようである。そして、皮肉なことに世界のリーダーの中で最も地政学に通じているのは、かつて世界にイデオロギーを振り撒いたロシアのプーチンだ。

 さすがに鈴木宗雄氏の懐刀といわれた元外交官だけあって、佐藤氏は複雑怪奇な国際情勢を分かりやすく説明してくれる。IS(イスラム・ステイト)の登場によりイスラム教にシーア派スンニ派があることを思い出した人は多いと思うが、何ゆえイランにシーア派が多いのかを説明できる人はそうはいない。このような疑問が本書を読めば氷解する。
 また、これは本書に限らないが、書物である前提知識を入れておくと、TVメディアがいかに薄っぺらい知識を断定的かつ「知ったふうに」で撒き散らしているかが良く判る。例えば「タックスヘイブン」の起源は、①ローマ教皇領、②ハンザ同盟、③イギリスの船舶・船員供給組織(シンク・ポーツ)など諸説あるが、某局では③をあたかも当然のごとく解説していた。


 筆者自身も語るように地政学はとてもドライな学問だ。それゆえ、本書を通じて戦争や内戦、核開発といった恐ろしい話題を筆者は淡々と語っていく。ところが、唯一佐藤氏がそのドライさを失って、主観的というかウェットになっているのが沖縄問題である。
 佐藤氏はどうやら沖縄問題について、翁長氏のスタンスを支持しているらしく、安倍政権のように翁長氏の要求を受け入れないスタンスでは日本という国民国家の中に、琉球という別の国民国家ができかねないと主張する。そして、沖縄がいかに他の日本と文化的諸相を異にするかを本書の中で詳しく説いている。

 さらに、最終章では「中国に第2のIS(イスラム・ステイト)ができれば中国の海洋進出は止まる。それは荒唐無稽な予測ではない」と説く。

 これを合わせ読むと、①沖縄県が将来「琉球国」になる可能性はある、②中国に第2のISができなかった時は中国の海洋進出は止まらない、となり、
 行き着く先は、沖縄県の(その琉球国なるものは)中国の属国化か、あるいはチベットウイグルのごとき自治州ではないのか。

 にも拘らず、佐藤氏は沖縄問題について安倍政権を非難するばかりで、将来の危険性を語らない。
 他の分野で恐ろしいほど冷静な彼が、いったいどうしたことだろう?
 考えられる答えは2つしかない。

1 故郷、沖縄問題ではさすがの佐藤氏も冷静な将来分析ができない。
2 実は、中国と通じており親中琉球国の誕生を望んでいる。

 2は陰謀論の類になってしまうが、日本一の売国官庁=外務省出身者だけに否定しきれない。

 ただ、沖縄問題を省いて読む分には、非常に参考になることは間違いない。