習慣新書

新書を片っ端から紹介していくブログです。1年間に200~300冊程度紹介するのを目標にしています。

格闘ゲームは人をかくもクレバーにするのか 『悩みどころ逃げどころ』(小学館新書) ちきりん&梅原大悟

 ちきりん氏は、ブログをやる人なら誰もが知るアルファブロガーである。そして、何度か彼女のブログを読んだ人ならば、彼女が外資系の金融会社に勤めていたエリートで、今はビジネスの世界をリタイアし、悠々自適のブロガー生活を送っている事もご存じだろう。
 一方、梅原大悟氏は、私は全く知らなかったのだが格闘ゲームの世界では「神」と言われた存在らしい。このマイナー世界の王者二人の100時間にわたる対談を一冊にまとめたのが本書である。
 当初の企画は、いわゆる「学歴」や「学校で習う知識」が今の世の中で役に立つのかというテーマだったようだが、対談はどんどん発展して「人生論」から「格闘ゲーム」の世界が今、金銭的な意味ですごい事になっている様子までに及ぶ。
 第1章と第2章では「学歴」や学校で習う知識の有用性を二人が論じているのだが、終始一貫して学歴に懐疑的なちきりん氏に対して、梅原氏は学歴がないことの悲惨さを訴える。両者とも、自分の半径数メートルの経験を元に語っており、いわゆるエビデンスという点では難があるのかもしれないが、双方の意見に生身の人間を知っている迫力があり、両者一歩も譲らない。
 さらに結果かプロセスかという議題に移ると、ビジネス界を生き抜いてきた、ちきりん氏が「なにより結果」と主張するのに対して、梅原氏は格闘ゲームの世界を引き合いにして、結果だけ出す=どんなつまらない手段も使っても勝つ事の危険性を説く。その危険性の1つは、そういうプレースタイルが定着すると格闘ゲームの世界そのものの人気が無くなり、結局誰も食べられなくなる事だ。これは私にもすぐ理解できた。もしも、プロ野球の全球団が高校野球のような戦い方(例えば1塁にランナーが出たら必ずバント)をしたら、プロ野球そのものが凋落するだろう。驚いたのは、つまらない手段で勝つ者は、やがて勝てなくなるという指摘だ。その理由は本書で確認いただきたい。
 しかし、格闘ゲームとはかくも奥深い世界だったのか。ゲームに対する自分の偏見をぬぐえただけでも買った価値、読んだ価値があった。