習慣新書

新書を片っ端から紹介していくブログです。1年間に200~300冊程度紹介するのを目標にしています。

創作は孤独とともにある。 『孤独の価値』(幻冬舎新書) 森 博嗣

『すべてがFになる』でデビューし、スカイ・クロラシリーズなどヒット作を出し続けた作家の「孤独」という問題を中心にした人生論。
 工学博士でもある著者は、まず人はなぜ孤独を恐れるのかを考える。そして、彼は、群れをなす動物である人間の本能として一人になることはすなわち「生存の危機」であり、それゆえ人が孤独を忌避する感情は自然であるという結論に行きつく。しかし、実際には文化・文明を持った人間が一人になったからと言って「生存の危機」に見舞われる訳ではない。それゆえ本能に従って、孤独をむやみに恐れるのは愚かだとさとく。
 そのうえで、どういう時に人が孤独を感じるのかについて、著者はいかにも理系らしくサインカーブのごとく人は「賑やかな状態」と「一人でいる状態」を繰り返し、「賑やかな状態」から「一人でいる状態」に向かう時に孤独を感じるという仮説を開陳する。そして、その振幅が激しいほど人はクリエイティブになれるのであり、孤独を恐れていては創造的な生活はできないとまで言い放つ。
 確かに、クリエイティブな活動には一人の時間が不可欠だ。映画のように最終的には大勢が協力して何かを作り上げるものであったとしても、その前の段階では原作者や脚本家が孤独な状態で作品作りをしているし、プロデューサーや監督も一人で構想を練る時間があるに違いない。
 筆者の考察はさらに深化し、孤独と向き合う美という境地を賑やかな美よりも一段高い状態ではないかと考える。すなわち「わび・さび」の世界だ。人は美を追求する際に、最初は賑やかなもの、晴れやかなものを追求するが、やがてそれに厭きて、別の境地を目指す。そのときに人間の感性を高い次元に引き上げてくれるのが孤独ではないかと言うのだ。
 クリエイティブな活動とともにあるとき、孤独は大いなる楽しみであり、それを知らない人、ただただ一人を恐れる人に人間的深みを感じられないと言われると、大きく頷かざるを得なかった。