習慣新書

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左翼系学者の挑戦と限界   『「安倍一強」の謎』(朝日新書) 牧原 出

 民主党政権が終焉し、政治の世界では「安倍一強」時代が続いている。本書は左翼系の大学教授がその謎の解明に挑戦した著作である。
 第1章では、与党しか知らなかった自民党が、3年間の民主党政権を経験して「政権交代を知る」より逞しい政党に変化したと分析する。筆者が言うまでもなく、日本以外の国では政権交代は日常行われる事であり、自民党は与党、野党、与党という経験によりグローバルスタンダードにおける「普通の政党」になった。これが自民党の強みだ。しかも、安倍総理は第一次安倍内閣時代に参院選挙で手痛い敗北も経験しているので、世論の気まぐれさも熟知している。これに対して民進党(旧民主党)は、万年野党から3年間の与党しか経験していない。しかし、数年か10数年のうちに党を立て直し与党になる日が来る、という筆者にとっての希望的観測を述べる。
 第2章での内閣官房分析は鋭い。安倍内閣は菅氏を官房長官に起用したが、菅氏の最大の特徴は、政界に特定の親分を持たず、常に政局・政策の面から合理的かつ最適な行動を取れる点だ。しかも、安倍内閣は橋本内閣や小泉内閣のような統治機構の根本的な刷新には手をつけず、官邸機能の強化だけを目指した。それが菅氏を中心とした安倍内閣の強みである。しかし、このポストが勤まる人間は、今のところ菅氏しかいない。それが将来的に安倍内閣の弱みになる可能性がある。
 第3章では衆参で過半数議席を占めながら、かつての自民党のように野党に鷹揚な態度を見せる事無く、自身の政策実現を急く安倍総理への疑問が呈されている。
しかし、それを疑問に感じるのは筆者が左翼ゆえにすぎない。かつての自民党政権は、その多くが「政権与党にあり続ける事が目標」だったのに対し、安倍政権は「日本の現状や未来を見たときに必要な事(少なくとも安倍総理が必要と思っている事)を行う」ことを目標としている。その意味で自民党は、ようやく「普通の政党」になれたのであり、各議員が国会議員であり続けたいだけの烏合の集たる民主党は「普通以下の政党」でしかない。
私は、野党第1党がそういう政党であることこそが「安倍一強」の理由だと思うのだが、それが見えないのは左翼系学者の限界だろう。